農学博士　阿部智子氏。重イオンビームで世界を救う？

植物の品種改良。

普段、私たちが口にしている食べ物、特に野菜や蓄肉については

純粋に自然の産物などほとんどないだろう。

みんな何かしら人の手によって品種改良が施されている。

いや、「施されている」と言う表現はやや違うかもしれない。

古くは野菜等はその形や収量の優れている固体を選抜して

品種を固定化してきた。それを品種改良と呼んできた。

品種改良には「遺伝子組み換え」

と言う技術も存在する。

例えばトウモロコシ。

ある遺伝子組み替え操作を施されたトウモロコシは

その世界的大害虫「アワノメイガ」を殺す。

人間には全く害の無いであろう遺伝子組み換え操作を施されたトウモロコシなのだが

その蛾がにとっては遺伝子組み換えトウモロコシは毒物なのである。

そんなトウモロコシを人が食べたいと思うのだろうか？

遺伝子組み換えと言う言葉には負のイメージが付き纏う。

しかし今や種に直接ビームを照射して

突然変異を促す手法が実用化されつつある。

品種改良を「施す」と言う言葉がここに来てぴったり当てはまってきた。

時代の進化とは恐ろしいものである。

この技術に遺伝子組み換えと言う言葉に付き纏う負のイメージは無い。

日本におけるその第一人者は品種改良のスペシャリスト

農学博士　阿部智子（あべともこ）氏であろう。

東北大学大学院農学研究科修了　農学博士。日本学術振興会特別研究員、

理化学研究所基礎科学特別研究員を経て、理化学研究所研究員。

組織培養および細胞融合による品種改良、

アスパラガスの性分化などの研究を経て加速器に出会う。

2008年より仁科加速器研究センター生物照射チーム　チームリーダー。

2009年には重イオンビームを用いた新しい育種法の開発」の業績により、

第7回「産学官連携功労者表彰 文部科学大臣賞」を受賞した。

阿部智子氏は種などに重イオンビームを照射することによって

突然変異を促し収穫量の多い米や長持ちする花など

１００種以上の品種を生み出してきた。

その研究とその成果は大袈裟ではなく人類の救世主的実績である。

それでもって重イオンビームとは何か？

原子は原子核と電子で構成されているがその原子から電子をはぎ取られたものがイオン。

そしてヘリウムイオンよりも重いものを重イオンと呼ぶ。

ヘリウムより重い炭素原子や窒素原子などをイオン化し、

加速器を使って高速に加速したものを重イオンビームと呼ぶ。

がん治療などの医療分野でも使われているものだ。

その重イオンビームによって種にある遺伝子に傷をつけて変異を促すのだ。

遺伝子組み替えと何が違うだろうか？

化学肥料、農薬、トラクター、品種改良と言う名の遺伝子操作。

どれも環境にストレスを与える。

しかし人はこの地球に住む限りこれら無しでは

その人口を養うことが出来ない事も現実である。

遺伝子組み換えと言う技術も重イオンビーム照射と言う技術も

等しく人類を救う技術のはずなのだが。